北欧で腐女子を集めて乙女ゲーム開発スタジオを作り、乙女ゲーム虎の穴「Otome Jam」でゲームを開発してきた話

日本の腐女子が北欧のゲームスタジオに就職し、隠れた腐女子仲間を見つけて乙女ゲーム開発スタジオを立ち上げた話の後編です。

海外にも「乙女ゲーム」というジャンルが認知されており、英語でもそのまま「Otome」としてitch.ioやSteamでもタグが用意されています。
他の『アドベンチャー』や『シミュレーション』というジャンルに比べると、Steam上では目立たないことが多いジャンルですが、根強いプレイヤーが多いジャンルとも言えます。

VN最大データベース、The Visual Novel Database上にはOtome Gamesのタグのついたゲームが約4600件も見つかります。このデータベースについては先日インディーゲーム『グノーシア』がVNではないと言われた件が一部で話題になりましたね。
このデータベースの審査員はVNにたまに厳しいと定評があり、恐らく、読むだけのパートの時間にたいして、プレイによって変化するテキストを読む(=プレイするパート)時間の割合が多すぎるとか・・いろいろな推測が後をたちません。
ガイドラインには物語・テキストをただ読むだけの時間が50%以上必要とあるのですが、『グノーシア』はメインの人狼的な会話の時間がVNではないと判断され、該当しないと言われたのでしょう。

余談が長くなってしまいましたが、前回の記事で乙女ゲーム開発スタジオ「Rotten Raccoons」を立ち上げた私は、その後に海外のOtome Game好き開発者が集まるイベントに参加しました。

毎年6月にゲームプラットフォームitch.ioで開催される「Otome Jam」です。
名前の通り「Otome」ゲームを作るイベントで、今年の副題は「Reincarnated into Otome Jam」という見出しです。「Reincarnated into-(転生したらー)」で始まるタイトルは転生/異世界モノの英語のタイトルに多く、で恐らく運営の中の誰かが「乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった・・・」を好きなんだろう感満載のビジュアルがトップページに表示されています。
ただその下に注意書きで「別に今回は異世界もののゲームジャムではありません」と書いてあります。

日本にいたころは大体の大枠でジャンルが決まっていたような気がしますが、欧米ではジャンルの定義を大ジャンル、サブジャンル・・・と細かく決めることが多いです。そのため、日本人的感覚とはジャンルの意味がちょっとかわることも。
※ちなみにジャンルは英語圏ではジョナー、ジョンナーと発音することが多いのでジャンルと発音しても普通に通じません。(今日の一言英会話)

このOtome Jamの「乙女ゲーム」の定義を翻訳してみました。

乙女ゲームとは?

乙女ゲームとは、特に女性向けに作られたゲームのことで、女性であるプレイヤーキャラクターが、男性であるプレイヤーキャラクターとの恋愛を(ルートやイベントを通して)追い求め、選ばれたキャラクターとの恋愛の結末を選ぶというものです。RPGやシミュレーションなどのビジュアルノベルやVNハイブリッドの形で登場することが多い。

主要な部分は以下の通り:

・女性主人公(主人公は選択可能だが、女性の選択肢がなければならない)
・ロマンス(登場人物の誰かと何らかの形で結ばれなければならない)
・男性の恋愛対象(女性、ノンバイナリー、その他は選択可能だが、必ずしも含まれる必要はない。
— Otome Jam

余談ですが、近年では性別や人種に関係ない恋愛を描くゲームも多いため、姉妹イベント「Josei Jam」が今年初めて発生していました。

「Otome Jam」の姉妹ジャムとして、女性向けゲームを幅広く扱う「Josei Jam」を開催します。「Josei」とは、大人の女性をターゲットにしたメディアを指す日本語です。Otome Jamが女性主人公と男性主人公の恋愛ゲームに特化しているのに対し、女性ジャムは下記のことが可能です。

・ボーイズラブやガールズラブなどの恋愛ゲーム
・恋愛以外のゲーム

基本的に、女性向けのゲームであればOKです!

女性向けゲームとは?

・18禁ゲーム
・商用および無料ゲーム
・恋愛ありゲーム、恋愛なしゲーム
・ビジュアルノベル、RPG、ポイント&クリックゲームなど
・過去に着手したゲームや、ジャムのためだけの新しいプロジェクト

不採用となるゲームは?

・女性をターゲットにしていないゲーム
・女性向けでないもの
・スクリーンショットが掲載されていないゲーム
・AIツールを使用し、無断で素材をスクレイピングしたもの

女性ジャムは乙女ジャムと同時開催です。乙女ジャムは好きだけど、もっと幅広い乙女ゲームの企画を作りたい!という方のために開催しています。
— Josei Jam

ちなみに、主人公と恋愛対象が共に男性である作品はBL(ボーイズラブ)という別ジャンルが海外でも確立しています。

前置きが長くなりましたが、それでは「Otome Jam 2023」の参加ルールを見ていきましょう。


<ルール>

あなたのプロジェクトを応募するには、以下のルールに従わなければなりません。

・女性が主人公であること(選択可能な主人公でも可)
・男性が主人公であること。他の性別の恋愛対象が登場しても構いませんが、男性の恋愛対象が他の性別の恋愛対象と同程度(それ以上でなくても)でなければなりません。
・ストーリーのどこかで恋愛に焦点が当てられていること。
— Otome Jam

<許可範囲>
1. 18禁のプロジェクトは許可されています。ただし、未成年にふさわしくない内容や、トリガーとなる繊細な内容は、ゲームページとゲーム内の両方に記載してください。これはSFWとNSFWの両方に適用されます。NSFWと表示されていない投稿が発見された場合、その投稿は削除されます。

2. あなたのゲームが18禁であろうとなかろうと、必要なコンテンツとトリガー警告を適切にタグ付けしてください。また、偏見や人種差別を助長するような投稿や、その他の攻撃的なトピックの取り扱いが不適切な投稿も削除されます。

3. 乙女ゲームについては、過去に着手した作品でも応募可能です。このジャムは、これから発売される乙女ゲームの露出を増やし、未完成の乙女ゲームをより多くの人に知ってもらう機会を提供します。

4. このジャムのためのプロジェクトで、今期間中に行われるものについては、以下を選択できます:

・ストーリーとキャラクターのアウトライン
・コンセプト・アート
・リソースを集める
・チームへの参加またはチーム探し
・完成品の制作を伴わないその他の作業

5. ジャムのゲームはほとんどの場合無料で遊べますが、事前に明記し、デモを提供する限り、後で好きなように有料化したり、商業化したりすることは推奨されません。私たちは、商業的なプロジェクトに無料または収益シェアで働くボランティアを使うことを推奨しません。製品が有料ゲームになる場合は、チームに報酬を支払ってください。

6. 複数のプロジェクトを提出することは、あなたがプロジェクトの作成者またはリーダーの一人であり、このジャムの基準に合っている限り、許可されます。多ければ多いほど良い!

7. アーティストやコンポーザーなど、チーム内のポジションを埋められない場合は、無料配布、パブリック・ドメイン、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスのリソースの使用が許可され、奨励されます。後でいつでも、更新された素材や新しいチームでゲームをアップデートすることができます。AIが生成したコンテンツは許可されません。

8. デモ、ベータ、エピソード作品は、プレイ可能な状態であれば許可されます。適切なスコープを設定し、クランチを避けることをお勧めします。

9. 他のジャムのルールで許可されている限り、他のジャムでエントリーを提出し、終了することができます。同様に、このジャムの応募規定に合うゲームを、他のジャムから応募することもできます(このジャムの開催期間と並行して開催されている場合、または乙女ジャムより前に開始された場合)。女性ジャムにもぜひ応募してください!

10. 乙女ジャムの商品としてブランディングするため、ロゴはご自由にお使いください(右クリック+名前を付けて保存)。ただし、Akua / Akua Kourinをロゴアーティストとしてクレジットしてください。さらに、ゲーム内またはゲームのページでチームのクレジットを表記してください。これは、あなたがチームメンバーと交渉し、彼らがそれを受け入れない限り、議論の余地はありません。リソースを使用する場合は、ライセンス問題が起こらないように、クレジットが必要かどうかを確認してください。

11. はい、片想いのプロジェクトは許可されており、条件に従っていれば乙女ゲームとしてカウントされます。範囲が狭く、記載されているポイントをすべて満たしているプロジェクトであれば、許可されます。また、主人公を選択できるゲームであれば、主人公の恋愛観も選択可能です。

12. Otome Jamにはサブジャンルのテーマはなく、私たちが選んだ「テーマ」は純粋に美学とグラフィックの理由によるものです。少女漫画や乙女ゲームからインスピレーションを得ています。ジャンルや設定にとらわれず、どんな乙女ゲームでもOKです!
— Otome Jam

という感じでルールがきちんと定められています。

実は私たちが参加したのは2022年で、「Rotten Raccoons」の仲間4人+1追加で集まりました。「おもしろそう!」という理由だけで。そのときのOtome Jamのメインヴィジュアルは、バラが舞っておりました。

その時に制作したゲームがこちら「OBSCURA」。

私たちのチームはストーリーライター2人、イラストレーター1人、サウンドデザイナー1人と私ディレクター兼マーケター。
5人も女子が集まると、描きたい登場キャラクターやシーンへの要求と欲望が高まり溢れすぎて、なかなかまとまらない。

Otome Jam2022年の注意事項には「オトメイトを目指してはいけない」というものがあります。オトメイトの乙女ゲームは世界進出していて我々の間でも当然の神なのですが、多数のキャラクター、膨大なリソースが必要でゲームジャムの期間で完成しないんですね。なので風呂敷を広げ過ぎてなかなかまとめられないよりも、ジャム期間中に作り切れるものを目指しましょう。という運営の優しい比喩表現です。

結局、Jamの時点ではプロローグという形にすることで、とりあえず理想の世界観設定とキャラクターの絵の方向性を決めることから始まりました。

危険な出会い、暗闇、闇市場、アンダーグラウンド、教会、神父、泥棒、貴族、商人・・・など、闇市場では顔を知られないようにマスクをつけなければいけない・・・等の設定を盛り込みつつ、実際にゲームの中でも主人公(プレイヤー)は市場に行く前に3つのマスクの中から1つを選んでつけなければならないようになっています。

そんなこんなでJamでプロローグを作り切り、itch.ioで無料で公開したところ、プレイヤーから高評価を受け、たくさんの人から「続きが読みたい!」とメッセージがあったので、現在細々と空いている時間で、みんなで続きを作っています。

全第3章からなるVN(ビジュアルノベル)で、現在 1.5章まで無料で公開されています。

この1年で5万5400回ダウンロード、492件のコメントがありました。また開発者のページフォロワーも5千人に上りました。無料なのでDL数は伸びるにしても宣伝をしていないのにこの数字はまあまあインディー業界ではいい方です。

直近のグラフのスパイクはitch.ioがプラットフォーム上とTwitter上で特集してくれたのをきっかけにユーザー母数が少し増えました。

プレイヤーが増えてきたので、Twitter, Discord, Tumblrの公式ページを開設。
Twitterは数ヶ月で3000フォロワーを超え、Discordも600人以上のメンバーが参加者してくれています。
Tumblrは1500フォロワーを超えておりFAQの場として利用しています。

まさかOtome Jamでサクッと作ったゲームが支持されるとは、チームの誰も予想しておらず最初はどうしようかと思ったのですが、プレイヤーからの応援もあり、先月トレイラーも作成しSteamページをオープンさせました。

Steamはユーザーがアダルトコンテンツの非表示の設定が可能なため、非表示ユーザーには18禁のゲームがレコメンドされることはないので、ページのインプレッションがどうしても少なくなりがちです。ただこういうゲームは口コミでの評価の伝播が多いので、特に気にしていません。

むしろ、有名な乙女ゲームのレビュワーにメールをしたり(15) Otome Obsessed (@otomeobsessed) / X (twitter.com)
※メールのあて先はXのプロフール欄にあります。他の乙女ゲーム開発者と繋がったり、(7) Otome Development (@otomedev) / X (twitter.com)(7) Indie Otome (@WorldIndieOtome) / X (twitter.com) することで、口コミで注目を徐々に高めていくことの方が重要だと私は思っています。

キックスターターというクラウドファンディングで注目を集めたり、真剣に開発するゲーム資金を集めたりする乙女ゲームプロジェクトもあります。下記は今年胸熱なVN乙女ゲーム『TOUCHSTARVED』、アメリカのスタジオですが、なんと$823302(約1億1千9百万円:8月11日現在の為替)を集めた鬼のようなプロジェクトもあります。

TOUCHSTARVED: A Dark Romance Visual Novel by Red Spring Studio — Kickstarter

ただ私たちのスタジオRotten Raccoonsのメンバーはみんな本業があり、みんなが空いている時間にゲームを作っているので、キックスターターなどで大々的になにか約束をしてお金をもらい、期待されると、その期待に応えなきゃいけないと思い、プレッシャーやストレスを感じてしまうことを自分たちで分かっています。そしてそのプレッシャーから本当に自分たちが書きたいストーリーや表現したいルートの創作意欲を失ってしまうことも理解しているので、今回はキックスターターという手法は多分ゲームができてから最後のマーケティング手段でもない限りやらないとは思います。

ということで、このゲームは早期アクセスとして第二章から販売していく予定です。2024年内の完成を目指しています。

現在、英語しかないのすが、将来は日本でパブリッシャーを見つけ翻訳できればなと思っています。ご興味あるパブリッシャーさんはご連絡ださい。(宣伝)

まとめ

私が池袋で楽しんでいた「乙女ゲーム」は今や日本を飛び出し「Otome Game」として日本国外のたくさんの乙女に支持されるようになりました。どこにいてもドキドキ、ときめきたい気持ちは万国共通なようです。

Otome Jamも2022年は52サークル、2023年は73サークル参加と、英語圏でも着々と乙女ゲームの輪が広がっていることがわかりますね。
いつか乙女ゲームでつながって世界が平和になるかも!

是非日本の『乙女ゲーム』開発者さんも来年の「Otome Jam」に参加してみてくださいね!


最後になりますが、この記事を書いたNeon Noroshi社(筆者が代表を務めております)は、「欧米から日本、日本から欧米へインディーゲーム」を宣伝するPR会社です。今後も北欧を中心にゲーム文化の面白話、ゲーム開発者の助けになる情報を発信していきますのでX(@NNoroshi)をフォローしていただけると嬉しいです!

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