Gamescom、日本から出展した開発者に聞く感想と、日本から欧州のゲームイベントに参加する意義

8月23日~8月27日までドイツのケルンで行われた欧州最大級のゲームイベントGamescom2023。
今年はコロナ前の活気が戻り大盛況でした。

来場者数は全日あわせて32万人で、規模を来場者数で比較するなら2022年の東京ゲームショー(来場者数が13万人)の2倍以上の規模と言えます。
https://www.gamesindustry.biz/320000-attendees-visited-gamescom-2023


今回、Neon Noroshiで応援しているゲームレーベル「ヨカゼ」のレーベルに所属するゲーム「MINDHACK」の良さを海外で伝えるために、「ヨカゼ」のスタッフの方2名にGamescomへ参加していただきました。

ちなみに「MINDHACK」は、個性的な悪人たちを精神をハックして、ハッピーな人格に書き換える独特なヴィジュアルノベル+タイピングゲームのハイブリットゲームです。

実は「MINDHACK」はSteam上のナラティブゲームの最大のイベントLudoNarraCon2022でも高く評価されており、台北ゲームショー2023にもインディーエリアに選出され、今回のGamescomのIndie Arena Booth(IAB)2023の世界中の膨大な応募の中から出展枠154中の1つに選ばれたゲームです。

「情緒ある世界の体験をあなたに」のキャッチコピーがグッとくるインディーゲームレーベル「ヨカゼ」は京都を拠点とするゲーム開発会社/パブリッシャーのroom6により運営されています。今回の展示へは「ヨカゼ」のアテンドスタッフとして以前ドイツに居住経験のあるハフハフ・おでーんさん(@ohanhan 通常はグラフィックデザイナーとして活躍されています。)から、感想を頂きました。

ーーー感想ーーーー

1)会場がとにかくでかい

さすが3大ゲームショーの一角、ヨーロッパ最大のゲームイベントだけあって、スケールのデカさが半端ない。もう会場がデカいだけでテンションあがる。最高。お客さんの通路幅をかなり広く取っているので通行にストレスを感じない。ただし客として会場を周ろうとすると相当しんどい。

大きなブースとブースの間はピカチュウ2匹分くらい広い


2)お客さんは超積極的

日本と違ってお客さんは物怖じせず、遊べる試遊台があればとりあえず遊んでみる!というライトな雰囲気でブースにやってきてくれる。

同時に、遊んでみて合わないと思うとすぐに離れるし、自分の好みにうまくハマると熱心によかったところをハイテンションで伝えてくれる。嬉しい。



3)IAB運営は親切丁寧

Discordなどでの連絡・案内に加えて、ブースを周りながら「大丈夫?うまくいってる?」と優しく声もかけてくれる。運営ボランティアがブースまで来てホットドッグ(無料)の差し入れもしてくれたり、飲み物の空き瓶を回収してくれたりもする。運営本部には日本語を話せる運営スタッフもいるみたい。




4)海外の出展者が凄すぎて凹む

日本人以外の出展者は基本的にバイリンガル、またはトライリンガル。ポジティブでコミュ力も高くエネルギッシュ。もちろんその上で最低限以上の開発スキルを備えている。会場では同じ開発者としてアドバイスを求めてくるし、こちらにリスペクトを払った上でアドバイスもしてくれる。SNSでインディーゲームの定義みたいなショーモナイこと言ってる場合でないことを骨の髄まで思い知らされる。

付箋でお客さんの感想を貼っていき盛り上がりを可視化するブース


5)自由すぎる文化

会場内は飲食自由。酒や食事を摂りながら接客する出展側も結構いる。邪魔にならない場所で横になってビール片手にチルってるお客さんがいるかと思えば、正式な出展者じゃないのに自作ゲームのビラを撒いてる人、フリーで絵を描きますみたいな人までいる。日本では絶対に許されないと思うが、個人的にはこれくらい自由でいいと思う。

IABスポンサーの一番左上にあるBitburger(ビットブルガー)はドイツのビールメーカー!今回はノンアルコールのビールを配りまくってました!


6)ぶっちゃけプロモーションとしてのコスパはよくない

Twitterで公式が出展ブースごとに告知してくれたりsteamで特集ページができたりするものの(出展タイトルも多すぎるため)ネットからのウィッシュリスト追加などはあまり期待できないのでは?という印象。会場ブースでは5日で大体400人(プレイアブル10分として1時間に平均7.5人×11時間×5日)に試遊いただいたが、諸々考えてもプロモーション単体として見るとコスパはあまりよくない。



7)総評

コスパは相当悪いと思うが、一度は参加して損はないほど素敵なイベント。エネルギー、モチベーション、インスピレーションなど得られるものは多いと思う。日本の他のゲームスタジオさんもスタッフを連れて参加していたが、Gamescom出展は人的投資という意味合いが強いと話していた。僕個人は来年も行きたいので1年かけて状況を作りたいと思っています!来年はみんなでいきましょう!




●MINDHACK、イベントに特化したゲーム展示方法の改善点

イベント開催期間中、ほとんど途切れることなく遊んでもらい、最後まで遊んだユーザーからの評価も非常に高かったが、展示方法に改善の余地があると感じたため記載する。

1)ブースのデザインだけではどんなゲームなのかが分かりにくかった

デザインとしては美しいがイベント用としてはシンプルすぎた。デザインは手や花よりキャラクターを全面に押し出した方がよい。

2)ゲームを閉じて止めるユーザーが多かった

PCユーザーが多いせいなのか、ゲームを止める際、やたらとウィンドウを閉じてゲームを終了させるユーザーが多かった。プレイアブルについては閉じれない仕様にする方がよい。

3)タイトル画面がシンプルすぎた

イベント用プレイアブル版については、タイトル画面をどんなゲームか、どんなキャラが出てくるゲームなのかを一目で分かる派手なビジュアルにする方がよい。また一定時間でPVに移行する仕組みがあるとなおよい。


*上記は「リリース用のゲーム本編」ではなく、「イベントの展示方法」に特化した改善点です。


ーーーー以上ーーーー





今回のGamescomは私もお絵描きゲーム「パスパルトゥー2」の展示で行くことになっており、Gamescomも3度目で現地でもサポートできそうだったので「是非一緒にゲームをIABに応募しましょう」と「ヨカゼ」を運営するroom6さんにお声がけして、実現したという流れです。それから選考に通り出展に相成りました。

この感想を聞いたときは本当にGamescomへの応募を呼びかけて良かったなと思うと共に、さすがの開発者視点のイベントへの改善点が沢山ありこちらも勉強になりました。

ちなみに私はNintendo Switch ブース内に出展していた「パスパルトゥー2」ブースに張り付いておりましたが、Nintendoのブランドのイメージなのか家族連れでゲームを遊びに来てくれる方も多く、立ちっぱなしの話しっぱなしの疲弊した私の乾いた心に癒しを与えてくれました。


本当にGamescomにマーケティング効果はないのか?

日本からGamescomに参加するのは大変です。日本から出張した場合の費用を2023年9月1日の為替で概算すると、1人あたり80万程度になります。

・日本からのドイツの航空券往復費用:エコノミー25万円程度
・ケルン市内で宿泊した場合5泊6日:15万~20万円程度
・IABのブースコスト:2,500~3,000ユーロ。日本円で33万~40万円(大きさによる)
・PCや諸々のレンタル費用:500ユーロ。日本円で7万8千円程度

食費、空港から市内への交通などもありますが、ざっと見積もって最低1人80.8万円。
ホテルが2人や3人部屋だともう少しお得に、ケルン市内に宿泊せず郊外のホテルに泊まればホテル代はさらに安くはなると思います。が、それでも円安の今は通常で80万、節約しても1人50万~60万円はかかります。

この出張費80万円をゲームの売上、すなわち会社の経費から捻出できるスタジオは、すでに成功している部類のインディースタジオでしょう。
インディーゲームのイベント出展は基本的にマーケティングにおいては認知を高めることはできますが、基本アクションやコンバージョン(Wishlistや購入)には直接強く結びつきません。
展示会場でゲームが楽しいと思っても、何百個も展示されている中で、その場でスマホでSteamに飛んで購入する人はほぼ皆無です。写真にとって記録する人はいますが、それの写真を自宅に帰って見返して購入に至る人は極わずかです。
その点から売上的な視点では80万円に対するROI(費用対効果)は、イベント中には起こりえません。


ただしビジネス開発的な視点でのROI(投じた費用に対して、どれだけの利益を上げられたかを示す指標)はあります。

例えば

・出展していたことでパブリッシャーが見つかった。数千万~億円単位
・ジャーナリストやプレスが知ってくれて記事を書いてくれた。数十万~百万円単位
・ストリーマーがストリーミングしてくれた。
・他の似たジャンルのゲーム開発者と仲良くなってゲームのバンドルをSteam上で組んでくれた。数十万~数百万円単位
・他の似たジャンルのゲーム開発者と仲良くなって、先方のゲームコミュニティでゲームを紹介してもらえた。数十万円単位
・Steam上での招待制の特集イベントに招待された。数十万~数百万円単位
・信頼のできるローカライズ会社が見つかった。<プライスレス
・自分のゲームのジャンルに強いジャーナリスト・インフルエンサーと知り合えた。<プライスレス

つまり、ビジネスネットワークを築ければ、中長期的に見て十分元がとれるでしょう。

また開発者、スタジオ運営者の双方にとってもいい事はたくさんあります。

・日本国外のプレイヤーから直接感想が聞ける
・PCゲームの歴史の強い国の人たちのゲームUI、UXの癖が見られる。<改善点が見つかる。
・Gamescomに来る人のゲーム開発者に対する尊敬の眼差しが強すぎてモチベーションがあがる。
・自分の市場が日本国外にあることを実感できる。<これはとても大事
・疲れるけどめちゃくちゃ楽しい!(日常であまり出ないアドレナリンがでる)


などなど、開発面、精神面で長期的に見れば良い影響はあります。

強いて悪い面を言うと、開発者がイベントに行くと1週間は開発が止まる、そして帰国後1週間くらいは疲れて手につかない、もしくは体調を崩してしまう。という事もありますので、費用は旅費だけではなく、もしイベントに行かなかった場合に捗ったであろう開発進捗ロスのコストもあります。

経営判断としてはコストがかかるイベント参加にはなると思いますが、E3がキャンセルになった今、世界最大級のGamescom、是非一度は参加して損はないイベントかと思います。特にIABに応募してみて選出されれば是非、という感じです。



GamescomのIABのXやDiscordをフォローしていると2024年の応募開始のお知らせが受け取れます。
https://indiearenabooth.de/gamescom2023/games





それではみなさん、来年のGamescom2024でお会いしましょう!



今日の豆知識
ドイツでは水よりビールの方が安いことがよくあります。


この記事を書いたNeon Noroshi社は、「欧米から日本、日本から欧米へインディーゲーム」を宣伝するマーケティング会社です。今後も北欧を中心にゲーム文化の面白話、ゲーム開発者の助けになる情報を発信していきますので
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